10/29/2006

Heathrow

好きなロンドンの風景の一つに夜間飛行がある。大陸あたりに出張
し、帰りのフライトで快い疲労感をワインで癒し、日のとっぷり暮
れたロンドン上空に差し掛かると、あの落ち着いたアンバー色の街
灯が次第に眼下に広がりはじめる。皆仕事で疲れているのだろうか、
夜更けのフライトはいたって静謐で落ち着いている。
あの優しいアンバー色は、十数年前、初めてロンドンに到着したと
きも迎えてくれた。
その日は、はでな嵐だった。風が強すぎてなかなか着陸できず、ヒー
スロー上空で1時間半程旋回していたが、飛行機は揺れに揺れ、女
性の悲鳴さえ聞こえてきた。僕もさすがに気持ち良いわけがなく、
英語も全くできなかったので、手に汗かいてどうなるかと不安だっ
た。なにかアナウンスが入って、ようやく降下が始まった。それま
で真っ暗だった眼下に一瞬アンバー色が広がった。
このとき アンバー色 = 落着き という図が僕のなかで出来上がっ
たのかもしれない。アンバーが広がってくると、自然とリラックス
した気持ちになって、家に戻る安堵感に包まれる。
そしてブラックキャブを拾って家路に着くのもまた良い。彼らは接
客のプロも多く(酷いのも中にはいるが)、口数はこちらに絶妙に
合わせてくれるドライバーが多い。
色々不便もあるけど、なんだかんだ言って英国というのは実に良い
国だと思うし、すでに故郷である。

10/21/2006

Productivity

パソコンのキーボードを人差し指だけで打っている方へ、以下余計
なお世話。
ブラインド・タイプというのは和製英語だそうで、タッチ・タイプ、
タッチ・タイピストというのが正しいらしいですが、要はキーボー
ドに視線を落とすこと無しに、画面をじっと見ながら高速でタイプ
する技でございます。
タッチタイプがどうして優れているか:
- タイピングが一気に速くなり、楽しさすら感じる。
- 手書きするより速く、思考スピードを邪魔される度合いが低くな
る。特に英語の文章を構成している時に顕著。
- Cool。特にIT関連で飯を食っている人にはプロらしさが一段と加
わる。
ちょいと試算。いったい一生に何回キーを叩くでしょうか。例えば
このblog をざっと測ると日本語で2,000文字。日本語なので一文字
に2回キーを叩くとして4,000回。これを毎日続けると、4,000 x
360 =約1,500,000。これを30年続けると45,000,000。一秒に2文字打
つと仮定すると、22,500,000秒で、約徹夜260日分となります。秘書
やジャーナリスト等の場合、商売柄この5倍10倍、いやもっと沢山の
文字を打つでしょう。実にタイピングに数年分以上の長い時間を費
やすことになります、彼女・彼らは一秒に4から6文字を簡単に打ち
ます。相当な時間の節約ができることがわかります。自分が今、ど
れ程のスピードでタイピングできるか、早速測ってみましょう。例
えば:
http://www.typeonline.co.uk/typingspeed.php
wpmとは word per minute で、1 word は5文字で計算します。 2回
やってみました。47wpmと59wpmとでました。一秒に4, 5文字という
結果です。
タッチタイプを練習し始めると、一時的にタイピングが遅くなりま
すので、一ヶ月だけイライラが続きます。ここを我慢できるかそう
でないかが、天下の分かれ目。いまどきですと、様々な練習ソフト
ウェアが発売されています。楽しみながら練習できるようになって
いますので、これで一ヶ月間続け、さらに昼間仕事でキー打つとき
も、きちん教えに沿って辛抱します。
最初は手を定位置に置くことから始まります。これが実に苦痛に感
じますが、我慢我慢。左手の人差し指がF、右手のがJに位置しま
す。FとJのキーだけに突起が付いているのはこのためです。この
位置から手は動くのはせいぜい2センチ程度。あとは指の運動のみで
す。
次に徐々に各キーの位置を手が覚えるようになります。車でいうと、
クラッチとギアの関係みたいなもんで、教習所時代は頭で考えるで
しょうが、路上に出るころにはいちいち頭で考えていませんね。
もう少し上達すると、こんどは手が単語を覚えます。こうなればタ
イピングが楽しく感じてきます。例えば、 confirmation,
suggestion, investigation なんて長めのものでも手が覚えてくれ
ます。タッチタイピストは、confirmationを、一文字づつc, o, n,
f, というように文字のキーの位置を意識しているわけでは全く無く、
単語単位でその運指を体で覚えます。
このレベルまで来ると、思考を書きとめるというどうしても必要な
作業が、思考のスピードをあまり邪魔しなくなります。こうなれば
しめたもので、僕がなぜtouch typeを強くお勧めするのか実感し感
謝することになるでしょう。早速、ビール一杯奢ってください。
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20数年前の日本、個人のパソコンが電話回線・モデムでネットワー
ク接続され始めました。パソコン通信の創成期です。勿論インター
ネットというものは存在しておらず、先進のIT企業がホスト・コン
ピューターを提供し、パソコン通信の実験を始めました。一番人気
のあった(株)アスキーの場合、当時モデムが50台程度設備され
ていました。全国のパソコンオタクから電話がかかってきますが、
50人しか同時にネットにアクセスできないという、今では信じられ
ない時代でした。
僕も300bpsのモデムを入手して参加しました。皆さんのADSLが仮に
2Mbpsだとすると、実に1/7,000の超スロースピードですが、これが
最高スピードだったのです。当時こんな遊びをしていたのはコンピ
ューターのプロか、オタク。パソコンの画面上で知り合って仲良く
なったものの、お互い会った事が無いという、今では普通のことが、
当時実に不思議な体験でした。オフ会呼ばれる飲み会がたまに開催
され、普段画面上でコミュニケートしている仲間が実際に会ってワ
アワア。僕もちょっと怖いながらしばしば参加していました。いき
なりマント着てくる奴とかも居たなあ。
ある日どこかのオフィスでオフ会があり参加しました。そこにほぼ
歳が近いと思われるお兄さん(当時)がパソコンに向かっていまし
た。ネットで面白い書き込みをする人で旧知(画面上で)でしたが、
画面を見つめたまま物凄いスピードでタイプしていました。Cool!
近寄って彼の運指をみて更に腰を抜かしました。なんとローマ字入
力ではなく、50音で打っているではないか。ひゃあ~
帰路、同行した友人と共に誓いました。そしてひと月後にはお互い
にそこそこのタッチ・タイピストになっていました。なんの難しさ
もなく、一ヶ月だけ一時的に遅くなるイライラを我慢するだけだっ
たのです。キッカケが必要だっただけ。なので、機会があれば社員
や人にお勧めしていますが、今のところ僕に勧められてタッチタイ
ピストになったひとはゼロ。あのお兄さんのような説得性が無いん
だなあ。

10/13/2006

You can't.

マダムの英語ネタblogに触発され、自分の英語力を棚に上げつつ以
下つれづれと。
英語、特にイギリス語の発音というのは子音がきつくて、母音のき
つい日本語ネイティブにはむつかしい。日本の西側で育った方たち
は更に母音がきつい。 例えば、Softbank という偉大な日本企業が
あるが、英国人に発音してもらうと、その美しきこと。当社にもこ
てこての関西人がいるが、この人が発音すると、ソフウトオバンク
ウー。 AS400、というIBMの名機ともいえるコンピューターがあった。
エイエス・ホー・ハンドレッドオ。この、ホーが英国人には伝わら
ない。多分 AS まできたところで、相手はfourを期待しているんだ
ろうけど、その刹那に ho が来るので、言語処理回路がかき乱され
るのであろう。
ちなみにこの彼も、カプチーノを頼んでティーが出てきた経験を持
つ、実に愛すべき明るい性格の持ち主であり、きっと自分で笑いな
がら美味しくティーを啜っていたことと思う。ちなみに、西側には
自己を笑いのネタにして大笑いする明るい人が多く、北海道で育っ
た僕には実に素敵だなあと思うし、いつも真似てみたいと思ってい
る。
渡英して3年程経過したころだろうか、仕事仲間のBob氏に、textの
発音を指摘された。当時僕は テキスツ 程度の発音をしていたよう
に思う。即ち最後の t は、何とかきちんと子音で終えていた。し
かし問題は キ であった。x の発音は i という母音とは無関係で
ある。あくまで x の子音で次の t つながらなければならない。たっ
た4文字の単語だが、この単語で、発生してもよい母音は e だけで
ある。テキスト vs テクスツ。
なるほど日本語でカタカナになっている単語ほど、発音は要注意だ
と気付かされた。他にも、テレフォン vs テリフォン、テープ vs
テイプ等きりがないが、文部省に提案したくなる。エー、ビー、シー、
デー、イー、エフ、ジー♪という歌で小学だか中学でアルファベッ
トを覚えるのがあった、今考えるとこの辺から既に間違いは始まっ
ていた。最近はどうなってんだろう。
さらに、子音のきつい英語発音を相手に伝わるように発音するには、
肺活量というか、より吐く気流をきつく出さないとならないのも、
日本人というか母音のきついネイティブには厳しいところである。
f, p あたり。僕は渡英後16年経っても w がどうにも改良できない
でいる。Where do you live? とか聞くと、今でも必ず pardon? が
返ってくる。誰か教えてください。
脈略なく話を続けるが、今でも恥ずかしくて、忘れたいけど忘れる
ことができないことが渡英6年目にして発生してしまった。can't
の発音である。もうお分かりの方もおられると思うが、まあ聞いて
つかあさい。米語だとキェーントみたいな音になるらしいが、イギ
リス英語だと、”エ”という音にはならない。文字通り”カ”であ
る。もともとこの発音には自信がなかったので、cannot という単
語を使っていたが、さすがに6年も経ったので、カッコつけてそろ
そろ挑戦と思っていた。場所は某日系銀行のお客様のディーリング
フロア構築中のサイトオフィス、相手はEBSという金融ブローカー
相手に商売する企業の英国人女性プロジェクト・マネージャーであっ
た。必要なデータ回線をこの日に導入したいがどうだ、と聞かれ、
そんな悠長な日程ではとても間に合わないと言いたく、"You can't"
と言った(つもりだった)。と、同時に僕の英国人部下2名が腹を
抱えて床を転げ回った。僕は何が起きたのか分からなかった。can't
はカーーントと、カ を伸ばさないと大変なことになります。この
小話はパブリックな場では説明できないので、分からない人にはメー
ルでお答えします;
結構難易度が高いのが、s と sh の違い。人差し指を口に当てて、
静かにしてね、のシーがsh 。吐く気流がしゅるしゅるしている。
これに対して s はスィー、口は横に開いており、shと違って尖っ
てはいない。I see のつもりが I she と発音している日本人は多
い。最近当社に Cissie さんというSweden出身の女性が入社した。
これでまた、大変なことになっている。。。日本人社員集めて、発
音練習会を開こうと思う。

10/08/2006

Memory

去る月曜日、飽きもせずにまた歳をひとつ増やしてしまいました。
この前後になると、いたって平凡な人生なれど少年時代から今にい
たった出来事がつらつらと思い返されます。
僕が紅顔の若き日に最初に入手したパソコンは、Z80というCPU(中
央演算処理装置)を持ったもので、メモリーが128Kbyte、ハードディ
スクは付いていませんでした。今自宅で使っているパソコンは、皆
さんのパソコンとほぼ似たような仕様と思いますが、Pentiumとい
うCPUで、メモリーは1Gbyte, ハードディスクは80Gbyte内蔵されて
います。メモリーの量は、この25年間で実に8,000倍となりました
が、僕の頭脳の記憶装置は1/8,000位に減っているかもしれません。19
歳あたりを境に、頭脳の細胞はどんどん減るらしいですね。いやな
ものです。
昼時、オフィスから徒歩1分のレストランで社員と着席して昼食を
していました。女性客二人が入ってきて、”あら吉田さん、こんに
ちは”。見上げて、”おー、どうもどうも”(ありゃ、またかっ、
どちらの方だっけ・・・)。
結論から言うと、レストランを出るまでに思い出すことができまし
た。そして、はたと気が付きました。仕事関係の方々は、上からお
顔を見た方が思い出しやすい。仕事柄、お客様はオフィスで着席さ
れていて、コレが動かない、アレが昨日までは動いていたのにとい
う状況で、これらを傍に立ってお聞きしながら問題を解決せしめる
のが、僕の重要な仕事の一つでありました。自然、上からお顔を拝
するわけです。実際、レストランを出る時に、着席されていたその
方に”お先に”と歩きながら声を掛けた瞬間に、会社名とお名前が
ばっと出てきたのがおかしみ。
非対称性(asymmetric)という言葉はちと意味が違いますが、犬とか
猫の顔もそうかもしれません。僕は腰が丈夫でなく、年に一度は壊
しますが、必ず左側が問題となります。医者曰く、左の足が右より
大分長いそうです(どちらも短いが、相対的に右がより短いという
言い方もある)。英語で電話で話すとき、必ず左に受話器を持ちま
す。右だと何言っているのか分かりません。日本人相手でも、相手
の声が小さかったり、うるさいパブで会話するときは、顔を右に振っ
て左の耳を向こうに向けています。キーボード打つときは3度ほど
左の肩を引いているかな。
歳を重ねると非対称性がより顕著になるのかもしれません。バラン
ス感覚保っていきたいとは思いますが。