2/20/2012

Up

例によって新しい映画ではないと思うが、 Up というディズニー映画
を最近子供と共に観た。ここのBlogサイトにはアンチ・ディズニーが
割と多いのだが(笑)、なかなか面白かったよ。亡き妻と共に夢見た
遠い絶景の地で持ち家。立ち退きを迫られた都会の持家を、独り者と
なった爺さんが、一瞬のひらめきでもって、多量の風船で一軒まるご
と空中に浮かばせ移動して実現する、という楽しいアドベンチャー物
語。
実際の家一軒の重量というものは、いかほどのものになるものか見当
もつかぬが、ヘリウムガス風船を千個つなげようが1万個つなげよう
が、現実に浮かばせることは不可能であろう。
ところが、僕とその家族の現在の居住空間は、似たようなものなので
である。何十年も地上3階建ての建築物であったものに対して、地下
階を数年前に追加した結果の地上1Fと地下1Fを跨ぐもの。昨夏に
は、通りの別の建物で、同じような工事が始まり、数ヶ月には無事完
成した。時々そろりと横目で現場を眺めていたが、実に興味深いもの
だった。
安全な橋を作るとか、鉄塔を建てるとか、同じ技術屋であっても、電
子回路やソフトウェア設計屋からはまったく見当がつかないスケール
の仕事をされているのが建築・土木の設計屋さんであり、シンプルに
感心するしかない。かくして建築工事現場の見物は、僕の楽しみの一
つとなっている。
地上階を崩すことなく、どうやってその土台を補強しながら同時に地
下を掘って新しい3次元空間を創造するものか、その段取りは緻密な
ものであろう。地震がある地域とそうでない地域では、その強度基準
も費用も大きく違うであろう。工事の最中に地震や水漏れが発生する
というリスクも、無論計算済み。いずれにしても、はじきだした強度
設計や安全係数には、ほぼ絶対に近い裏づけが無いと、そうそう安易
に着工できるものではないだろう。万一、家が崩壊したら人が死にま
すからね。ちょろちょろとしたIT関連の設計の世界しか知らない僕
には恐ろしく、大したものだと思うしかない。人命の関わる医療関連
のサイエンティストやその関連IT技術者さん達も、毎日胃を縮ませ
ながら仕事をされていると容易に想像がつく。本当に、ご苦労様とし
か言い得ない。
この映画では、ちょっと頑固な独り者爺さんと、たまたま知り合いに
なった太っちょのアジア系少年が主役である。このプロットは絶妙で
あり、 "Up" という明るくポジティブな題名は、とても良いと思う。
しつこくなるが、明るく行きましょうや。

2/16/2012

Writing

タッチタイプの有用性を以前書いたが、僕の愛する日本の小説家で、
原稿をキーボードで叩いている方は、まずおらんだろう。というか、
悲しいかな、おおかたすでに死んでしもうた。保守化ということも以前
書いたが、読み物も典型的なその対象であり、文学ということでは、
ここ何年も開拓が無いに等しい。日々のにぎやかなニュースも日経だ
けは読むようにはしているが、まったく面白くない。疲れた目で寝る
前の数分読むものといえば、マキャッベリであったり、なぜか技術書
のソフトウェア作法とかプログラム書法など、いずれも古典ばかり。
これら著者達を永遠の思想的友人と勝手に思いこみ、幸せな気分で床
に入る。もしタイムマシンがあったら、おいしい葡萄酒でも手みやげ
に、ピスタチオでも齧りながら、ゆるりと彼女・彼らの薀蓄をお聞き12 Jan 2014
したいものである。
こうしてブログなどで、駄文を起こす者にとって、筆一本でどうして
その長大な起稿なり推敲なりをされておられるのかと、畏怖さえ感じ
る。作品群が素晴らしいだけに、彼女・彼らの文章に関する直感力に、
ただただ恐れ入る。僕にも、少年のころの遊び作りや、社会人になっ
てからの電子回路・システム設計、ここ10年の起業・企業仕事など
を通じて、ゼロからモノを作りあげることの苦しみは多少共感できる
かもしれないが、まったく比較にならない、そして永遠に残るであろ
う質の表現を生み出すのが文章のプロ達である。だからこそ、人を
moved させ、広く知られるということになるのであろうが、いやはや
同じ人間でありながら・・・と驚嘆するしかない。
しつこくなるが、寝る前に同じ小説やら歴史モノを何度も読む。これ
は、TVの水戸黄門シリーズ(残念ながら最近終わってしまった)に
似て、ハピーエンディングが完全に分かっているという保守的な安心
感があるのかもしれないが、実はそうでもなくて、何度も何度も読み
返すマキャッベリの一行に対して、覚える共感の度合いとか、僕のま
わりの現実に照らしてみた例とかが、毎回違うのだから面白い。良き
書き物とは、読み手のそうした毎日の心理の違いでさえも前提にして
工夫をされているのかと思うと、その深さにゾッとする。無論、例え
ば僕の敬愛する塩野七生さんなど言わせれば、あなたプロに向かって
馬鹿言わないでよ、などと一蹴されるのであろうが。