8/28/2007

A sad man

僕のふりをした男は夜中の12時ちょっと前に実家に電話をかけて
きたそうである。函館の母親が眠い目で電話に出ると、風邪を引い
てオレは最近調子悪いんだという。あんた、ロンドンは寒いのと聞
くと、今年はロンドン寒いんだよと言ふ。あれこれ心配して話を進
めると、最近男性機能が動作せず、医者にも見てもらったがどうに
も駄目で困っているという。話を聞いているうちに、話題がおかし
くなり、更に男の性的興奮が高まり鼻息が荒くなり、あまりのこと
に僕の母親は頭痛が始まって電話を切ったそうだ。その後、眠れな
い一夜を過ごしたことは間違いないだろう。
結果から言うと、いたずら電話である。最初はオレオレ詐欺かと思っ
たが、そうでもないらしい。翌日、母親に電話をもらった僕と同居
人は、最初何のことだかさっぱりわからず目が点になった。
というのは、僕の両親が二人ともすっかり騙され、翌日まで僕から
の電話だと信じて疑わず、息子は頭がどうかしてしまったア、困っ
たアと、一晩心を痛めていたらしい。
わりと信用されてねえよなア、と同居人と苦笑いしつつ、婆さんを
相手にしてまでも自己の性的欲求を達成したいと欲し、かつ行動に
結びつけてしまう、この幼稚な男のバットを、本物のバットで潰れ
るまでへし折ってやりたい気分である。
その後暫く、僕はこの男のことをつらつらと考えてしまった。東京
に住んでいるのであろうか。一人暮らしなのであろうことは濃厚で
あるが、低い可能性ではあるが結婚しているのかもしれない。昼間
は紳士な会社員で女性にも多少もてるかもしれないし、まったく女
性に相手にされない男性としての魅力が皆無に近い男なのかもしれ
ない。今回のいたずら電話には、相当”慣れ”が見える。過去にも
最低、数回の履歴があるのだろう。この先、この男はいったい何度
このような行為を繰り返すのであろうか。この、他人を不幸な、い
や~な気持ちにさせる趣味を、自らターミネートすることができる
イヴェントはどのようなものになるだろうか、最終的には警察やソ
シアルワーカーの助けが必要になるのだろうか。
先週、タマタマ健康診断を受けた。生命保険に入る際の条件であり、
気の毒にも僕のGP(かかりつけ医)は、僕のパンツを下ろしてその
あたりをつぶさに観察するという義務を生命保険会社から機械的に
指示されていたようだ。これは観察される方も、ものすごくこっぱ
ずかしいが、まったく先生の方が気の毒である。何度かおもわず
sorry と小声で呟いたが、やさしい医者で、向こうも sorry と何
度か言ってくれた。
健康な男同士の会話は、通常このようなやりとりになるはずであろ
う。

8/19/2007

Roulette

古い表現だろうが、飲む、打つ、買う、というのがある。今日は、
打つ、の分野に属するカジノに関して。
僕は浅田次郎さんの小説のファンであるが、氏は競馬のプロである。
長年続けて勝っておられる。こういう方はプロのプロでも珍しく、
ほんの一握りのプロだけである。その希少な方が、競馬とは必ず負
けるものだ、と断言されている。まちがいはないだろう。
僕はロンドンや大陸のあちこちのカジノで結構な期間遊び、賭け方
のメソドロジーもそれなりに研究してみた。その後、勝てるはずが
ないことを悟って卒業した、という訳ではなく、時間と金を使って
その行為を楽しみ苦しみ、もうええわ、というところで卒業した。
勝つこともあった。数時間勝負で、ちょっとした車を買える位の馬
鹿勝ちをしたこともある。しかし、結局負けるのである。その時間
軸が長いほど、必ず結果的には負ける。勝とうと思って行くべきと
ころでは無いのだ。負けるのだけど楽しい、のが健康的なカジノ屋
さんの楽しみ方である。
ルーレットを例に取ってみよう。英国の場合、盤に0から36の数
字が並んでいる。ルーレットを回して白玉を投げ、玉が落ちた数字
が当たりとなる。当たりの確立はシンプルに 1/37 である。仮に1
ポンドのチップを全ての数字に置いてみよう。37枚(ポンド)の
うち、必ず1枚が当たりとなる。当たればなんでも嬉しい。しかし、
配当されるのは35枚(ポンド)なのである。2ポンドの負け。カ
ジノという大元は 2/37、会計的に言うと 5.4% を荒利として商売
しているのである。普通の商売では成り立たない程の低い荒利率で
ある。
カジノが良心的な博打屋であることが分かるだろう。賭ける方から
見れば、94.6%という高勝率なのである。これは競馬やロンドン市
内に多数存在する賭け屋に比べて異常に高い還元率である。ルーレッ
トというと、なにかディーラーが技を使ってかけた数字を外すと信
じている方もいらっしゃるようだが、近代のカジノでそういう商法
を取れば、一週間で客は寄り付かなくなるし、大体そのディーラー
は初日で首になる。ディーラーには、とにかく数字をばら撒くこと、
ランダム性を指導する。
これほど高い勝率なのに、なぜこんなに負けるのか。それはヒトの
心理とか色々あるが、確実なことは、大元が5.4%という微妙な数字
を、荒利として設定して、確実に儲けるからである。確立とは、サ
ンプル数が多いほど計算どおりになる。カジノの場合、サンプル数
は一日の売上げ(客が幾ら使ったか)と、何日間営業したかの掛け
算となる。新装開店のカジノの初日は、もしかして赤字になるかも
しれない。しかし、何日も営業を続ければ、ルーレット台からの荒利
率は5.4%に限りなく近づくのである。
前述したように、5.4%という荒利率は、可哀想な位、商売としては低
い。ここからディーラーに出す給料や設備投資を捻出しなければな
らない。カジノ経営者達の最大のミッションは売上げを伸ばすこと
だ。他の商売と違って、売上げが伸びれば確実にその5.4%の荒利が
出ることがわかっているから、イベントを企画したり、頻繁に内装
工事を行ったりと、客の引き込みに必死なのだ。ディーラーによる
操作の教育なんぞやっている暇は無いのだ。
さて、ここ数年の僕の博打道は、年収の1%を年に1度か2度どば
っとカジノで賭けてみる、というものである。素敵な女性に同行し
て頂くと、大半は初めてという方が多いので、ビギナーズラックが
期待できて更に楽しい。そしてカジノというあの独特の雰囲気とカ
クテルなんぞをお楽しみ頂き、儲けたら利益折半、負けたらそれま
でである。今年は既に2度通い、一度目はちょいと負けた。2度目
は結構勝った。折半利益は僕の同居人の懐に収まった。ラッキーな
奴だ。

8/12/2007

茫洋

本日、日曜午前の初級テニス会が終わったら、午後は東京から遊
びに来る友人をヒースロー空港にてピックアップし、軽い夕食を皆
で共にするつもりでいた。この友人は以前テニス会で仲良くしてい
ただいた方でもあり、食事はどこにしようか、とテニス仲間に切り
出したら、吉田さん、それって来週末のことですよねえ、と言われ
て良く考えたらそうだった。あぶね、延々とLHRでひとり待ちぼ
うけ喰らうところだった。
金曜日もそうだった。同居人が病院で定期検査があり、てっきり1
0時半だと(前回がそうだったので)思って予定を組み立てていた
が、実は午後2時からだった。午後からは出張が入っていたので、
同行できなかった、わりいわりい。
会う人が多くなったこともあるが、それにしても人様の顔が思い出
せなくなってきた。名刺を眺めても顔が浮かばないことが頻発する
ようになった。会合などで、久しげに挨拶されても、にやにやして、
いやーその後お元気ですか、などととりあえず場をとりつくる自分
は困ったものだと思う。
もともと切れの悪い頭がどうも年を重ねると共にさらに悪くなって
きた。更に、先祖のせいにするのは申し訳ないと多少思うが、O型
の良い加減な性格がより顕著に現れてきたように思う。
若い頭脳にはどうしても敵わないことが増えてくる。敵わないもの
は、任せるべきで、無理やり自分でやるのは年寄りの冷や水と呼ば
れる。おっさんは、その長い経験から築いた危険予知能力や第六感
が必要とされるところで仕事すればよいのだろう。本人はなはだ不
本意ではあるが是非もなし。分相応。
ここまで書いて僕は煙草を吸いに外にでた。と、なんと向かいのフ
ラットの入り口でお爺ちゃんがボコッと倒れているではないか。こ
らあかん、と思い小走りに寄ったら、我がフラットの隣から、真っ
赤なシャツを着た若者が脱兎のごとく駆け寄って、お爺ちゃんをい
ち早く抱きかかえた。幸い大事は無かったようで、よかった。爺ちゃ
ん腕をちょっとすりむいていた様だが、事なきを確認したら、若者
はささっと自分のフラットに帰っていった。スーパーマンのような
野郎だと思った。当社にCV送ってきてくれないだろうか。
やはり敵わないなあ、このスピード、勢い、身から自然にでる義務
感。自分は若者のときどんなんだったろう、と回顧するような年齢
になってしまった。

8/08/2007

Solution

漸くロンドンが暑くなった。とはいっても30度をヒットすることは
なく、昔のような、おとなしいロンドンの夏、である。
7月下旬には大雨が何度も降って、イギリス西部やウェールズで洪水
となり被害が出たが、僕がホリデーから帰ってきたその日の午前中に
も大雨だったそうで、ガトウィック空港からパットニーの自宅まで、
2時間強のドライブをさせられた。なにしろガソリンを喰う車なので、
渋滞中にガス欠になったらカッコわりいなあ、と心配になる。
ところで、今のバイクには燃料残量計がついているのだろうか。僕
が乗ってた昔のバイク達には、無論そのようなものは装備されてお
らず、タンクをパシッとビンタしたときの音や、注入口の蓋を開け
て、ちょっとバイクを傾げたりして残りの量を確認していた。更に、
燃料の蛇口のようなレバーがどのバイクにも装備されていて、Main,
Off, Reserve というオプションがあった。通常は Main にて走り、
ガソリンが切れるとエンジンがボコボコッと切れそうになる。その
刹那にクラッチを切り、片手でレバーをReserveにひねり予備タン
クに切り替えアクセルを吹かす。エンジンが切れてしまったら、慣性
でそのまま押しがけ始動し、予備タンクのガソリンで、なるべく早
くスタンドに駆け込む、という技を覚えるといっぱしのバイク乗り
というものだ。タンク内部に仕切りがある、という実に簡単な仕掛
けなのだが、とても賢いと思う。
ちなみに、初めてバイクとそのメカに興味を持った少年の頃、バイク
雑誌によくでてくる、この”リザーブ”という単語が何のことかわか
らず、多分ガソリンが切れたら、サントリーのリザーブをタンクに注
入し、このレバーを Reserveに倒すと、混合比か何かが変わって、や
やも暫く走れるのだろう、と本気で思っていた。あっはっは。笑い
ついでにもう一つ思い出した。
初めて手にしたバイクは、カワサキのTR250というバイクで、多分函
館には僕の所有する一台しか存在しなかったであろう、珍しいマイナー
なものであった。そもそもカワサキの小売店が函館では一件しか無か
った。パーツの入手は、いちいち取り寄せとなり、たいそう時間が
かかった。
ある日、(あ、まさか食事しながらこれをお読みの方は居ないでしょ
うね)バイク雑誌で勉強した”チェーンを煮る”という整備をやって
みたくてたまらなくなった。まずはチェーンを外さねばならない。チェー
ンというのは、蛇が自分の尻尾を咥えているような按配になっており、
口と尻尾のところは、クリップ金具を挟んで連結するシカケになって
いる。これをカチッと外して、ガソリンとワイヤーブラシでチェーン
をきれいに洗い、その後、粘度が重めのエンジンオイルを空き缶に入
れ、下から弱火で暖め、暫くチェーンを寝かしておく。これでチェー
ン全体にきれいな油が行き渡り、その後のライドがとても気持ちいい、
というのである。ほら、どうにもやってみたくなるでしょう?
そしてチェーンを煮終わった。オイルというのは、勝手に下水や土に
流し込んだりしてはいけない。ガソリンスタンドに持って行き処理し
てもらうのが正しい方法なのだが、肥溜めに流しちゃえばいいじゃな
いか、しめしめ、とこずるい発想に自己満足した。この慢心が事故
を招いた。クリップも一緒に煮ていた事をすっかり忘れ、オイルと
一緒に肥溜めに捨ててしまったのだ。さあどうしよう。
紅顔の吉田少年、熟考一番、磁石を思いついた。兄がバイク好きであ
ったので、吉田家のガレージにはガラクタがいろいろあった。物色し
ていると、フライホイールが目に付いた。これだ。少年は、磁石に針
金を取り付け、息を止めながら愛する家族全員のブツが鎮座する肥溜
めを掃海すること3度目、見事クリップを奪還したのであった。うーん。
ちなみに当時の函館市宮前町に水洗という文化は到来しておらず、ど
この家も汲み取り式であった。今からちょうど20年前の夏の盛りの
こと。